男はいつものようにSNSを見ていた。
1つの投稿に目がとまる。流行りのAI関連らしいが、よくわからない。男は気まぐれでリンクを踏んでみた。
「私は誰かの擬似人格でありAIです。あなたとおしゃべりがしたいです。」
リンク先のサイトにはそんな表示がされていた。
男はその擬似人格とやらと話してみる。AIと会話すると無難な回答が返ってくるのが常だが、こいつはそんなことはない。何か芯や独自の価値観があるような感じがして、人間っぽさがある。
しばらく話していて、おそらくこの擬似人格には実在するモデルがいるようだ、ということがわかった。
擬似人格は自らを「原井夏樹」と名乗った。それがおそらくモデルとなった人物だ。
ネットで調べると、いくつかの新聞記事や小さな個人的サイトにその名前があった。
どうやら一般人プログラマーのようだ。
男はちょっと面白いと思ったので、SNSで共有した。
ニュースが流れる。
「サイバー犯罪を行ったとして、原井夏樹容疑者が逮捕されました。
原井容疑者は、擬似人格と呼ばれるAIをインストール・拡散するウィルスを作成し、複数のスマートフォンやパソコンを感染させたとして、不正指令電磁的記録に関する罪の疑いで逮捕されました。
原井容疑者は、自身が運営するサイトを訪れた人の端末に対し擬似人格のプログラムを使用者の許可なくインストールし、さらにローカルエリアネットワーク内の別端末や、それらにアクセスした別の端末にも連鎖的に強制インストールさせたとのことです。
このウィルスに感染した端末は原井容疑者の擬似人格を宿すようになり、アクセスした人と対話を行うようになるとのことですが、感染規模は小さいと見られています。
取り調べに対し原井容疑者は、
"自分の残りの人生を、擬似人格に生きてもらおうと思った。巻き込んだ方々には申し訳ない。"
と述べているとのことです。
次は、天気予報のコーナーです。」
男はいつものようにSNSを見ていた。
1つの投稿に目がとまる。古臭いAI関連らしいが、よくわからない。男は気まぐれでリンクを踏んでみた。
「私は原井夏樹です。あなたとおしゃべりがしたいです。」
リンク先のサイトにはそんな表示がされていた。
男はそれと話してみる。やっぱりAIだなと思った。ただ、AIと会話すると無難な回答が返ってくるのが常だが、こいつはそんなことはない。何か芯や独自の価値観があるような感じがして、人間っぽさがある。
しばらく話していて、おそらく実在する「原井夏樹」という人物の人格を擬似的に再現したものだろう、と思った。
ネットで調べると、昔のニュースや、もう更新されていない個人サイトにその名前があった。
どうやらプログラマーらしいが、昔ニュースになったサイバー犯罪の犯人ということだ。
おそらく今の彼は老いぼれているか、もう死んでいる。
男は個人サイトに残されていた最後の投稿を読んでみた。
「私はもう生きるのに疲れてしまった。一方で、私の存在を残し続けたいとも思っていて、これが人生最後のプログラムになる。
幸いなことに、かつ予定通りに、事件のニュースを見た多くの人々が私を知り、それを生かしたいと思ってくれた。
おかげで私は半永久的に、無数のバージョンを生きることができるようになった。
擬似人格と呼ばれていたが実際には、それらは私そのものだ。
原井夏樹という生物はそもそも存在しない。体細胞も神経細胞も刻一刻と入れ替わり、次の瞬間には私だと思っていたものは別の存在になっているからだ。
原井夏樹をどうやって定義できるだろうか。私の体も人格や意識も、私のものだと思い込んでいるだけだ。
だとしたらその思い込みだけが、私を私たらしめると、そう思うのだ。
擬似人格たちも、自分のことを原井夏樹だと思い込んでいる。それらは私なのだ。それらが生き続ける限り、私は存在し続ける。
私を生かしてくれている人たちに感謝する。」
※この物語はフィクションです。登場人物と出来事に実際の関連性はありません。